心臓の病気の早期発見のためには、症状や異常がある時に心電図を記録することが必須となります。そこで、慶応義塾大学医学部循環器内科の木村雄弘先生は、Apple Watchが記録するヘルスケアデータを活用し、日々の生活の中で「いつ心電図を取るのが最適なのか」を明らかにする臨床研究を開始しました。 株式会社アツラエでは、Apple WatchとiPhoneのアプリケーション開発を担当し、臨床研究データの収集にご協力させていただきました。
高いクオリティを保ちつつ、
アツラエ史上最速でリリースを実現
臨床試験の目的
日本でもApple Watchで心電図が記録できるようになり、今後ますます家庭の自己健康管理が充実することが期待されます。 しかし、心電図は「一度記録をすれば安心」「気が向いた時に記録すればいい」というものではなく、心臓に異常がある時に心電図を記録することができないと、それが正常か異常かを診断することができないケースがあります。また、症状が出ている時に病院にいるとは限らず、睡眠中においては症状に気づくことすらできない可能性もあります。 そこで、Apple Watchが計測する様々なヘルスケアデータとアンケートの回答結果などを用い、睡眠、飲酒、ストレスなどライフスタイルの影響を解析し、家庭で「いつ心電図を記録すればいいのか?」を明らかにすることを目的に、臨床研究Apple Watch Heart Studyを開始しました。
一番の課題はユーザー体験の設計だった
本臨床研究では7日分の安静時/睡眠中それぞれの脈拍/動悸データと、アンケートの回答結果を収集することを目的としています。一見するとなんのハードルもないように感じますが、 「1,Apple Watchをつけて就寝する」だけではなく、 「2,起床してからアプリを起動してアンケートに回答」してもらい、 さらに「3,動悸と心電図を記録」するという3つの手順を、7日行ってもらう必要があります。 また、本臨床研究では「慶応義塾大学病院内の心臓病患者さんのデータ」と、 「一般のApple Watchユーザーのデータ」の比較するためデータ収集であり、「心臓に不安を感じていない人でも、継続して利用してもらう」工夫を盛り込むことが重要だという結論に至りました。 そこで、アプリの開発と並行して、どんなコンテンツがあれば「楽しみながら継続してもらえるのか」を、お客様と相談しながら明確化していき、データの収集だけではなく、 「睡眠の時間と心拍数のトレンドから『ひとことコメント』にて、睡眠の質や睡眠に関するアドバイスを記載する」コンテンツを設けることで、毎朝アプリを起動するきっかけをつくることにしました。 クリエイティブにおいてはアプリ起動直後の画面で残りの回数をわかりやすく表示するだけではなく、円環に7つのオブジェクトを配置し、それらが日々の記録と共に、コンプリートされていくような、 継続する楽しみを視覚化したデザインを採用しました。 アプリ起動時の「ワクワクするビジュアル」と、「睡眠の質という自身では把握が難しい情報」を提供することにより、 実際に臨床研究に協力いただいた方からも『毎朝アプリを起動するのが楽しみだった』という高い評価を多数いただきました。
Appleの機能公開から1週間でアプリを
リリース
本プロジェクトは「リリースまでに要した時間」が、群を抜いて迅速だったのも特徴のひとつとして挙げられます。Appleが2021年1月27日に心電図アプリケーションと不規則な心拍の通知機能を活用できる 「iOS14.4」「watchOS 7.3」のソフトウェア・アップデートを公開してから、約1週間で『Heart Study AW』をリリースすることができました。これはアプリをリリースする期間としては、 特筆して迅速であるといえます。もちろん、1週間で開発したわけではなく、事前に公開されていた「ResearchKit」や「公式ドキュメント」の研究、「USにて先行リリースされていたデータの調査」を行うことで、 実現できたのですが、それでも正式な情報公開の前から、提供されるAPIやエクスポートされるデータを予測し、プロジェクトのキックオフから約半年でリリースをすることができました。 また、コロナ禍でのプロジェクトということもあり、対面での打ち合わせは2回程度で、ほとんどの相談や報告をオンラインで実施しました。 様々な制限と制約があるなかで、的確なプロジェクト推進と、フレキシブルな開発力を発揮することができたプロジェクトとなりました。
素晴らしい共創体制だからこそ実現した成果
臨床研究のノウハウがない我々では、本来であればアプリの設計だけでも数ヶ月時間を要することとなるのですが、 そんななか迅速に最高のクオリティのアプリを作ることができた背景には、お客様との共創が実現できた点も非常に大きいと感じています。 お客様のほうで過去に臨床研究アプリを開発した実績があったからこそ、アツラエではその時の進め方や、課題、デザインにおける可能性を効率的にヒアリングし、 理解をすることができたため、限られた時間の中で、最高のパフォーマンスを発揮することができました。
木村先生からアツラエへのお声
慶応義塾大学医学部 循環器内科
木村雄弘先生
木村雄弘先生
「アイディアを形にする迅速さ」と、「デザインと
ユーザー体験へのこだわり」を感じました。
iPhoneアプリをIoTデータ収集ツールとして臨床研究を行った経験がありますが、ResearchKitのおかげで、研究アプリの構築という観点では、自力で開発を行うことができました。しかし、臨床研究には参加者の適切な同意の取得や、情報の正確な伝達・収集などの必要要件があり、地味で難解なイメージを払拭できず、興味や継続性を促すことが困難と感じていました。 今回アツラエさんに開発をお願いした背景には、こうした研究としての性格を担保しつつ、「難解なイメージが無く」、「シンプルに続けられそう」なアプリしたいという願いがありました。 これらを実現するための相談は、コロナ禍初期でしたが、オンラインコンテンツによる情報共有、リモート会議を効率的に組み合わせてブレインストーミングさせていただきました。 デザインやユーザー体験に関しては、チームの皆様に良い意味でのこだわりを感じましたので一任させていただき、私はその他の研究の準備に集中することができました。 また、心電図機能など、当時公開されていなかった仕様を予測しながらの開発も、迅速に機能実装していただけたのも印象的です。シンプルなコア機能に絞ったことで、継続的な心地よい参加者のUXに繋がったと感じますし、 私自身も着手からリリースまで安心な開発体験をさせていただきました。